龍涎香(りゅうぜんこう)は、古来より「幻の香り」として珍重されてきました。
私の知る限り、調香師の間でも、この香りを「嫌いな人がいない香り」として認識されています。
また、「誰でも好きになる香り」や「女性の肌の匂い」とも呼ばれる、非常に貴重な香料です。
このブログ記事では、私が研究室で竜涎香を扱う中で見つけた、最高の香りを引き出す熟成の秘密や、嗅覚を超えて人に働きかける驚きの効果について、調香師としての経験と見解に基づいて深く掘り下げていきます。
\ 音声でも話しました /
私が体験した「最高級の香り」を生み出す3年熟成の秘密
海を100年ほど漂流し(特にホワイトグレードの場合)、海岸に流れ着いた龍涎香は、香料として用いるためにエタノールに漬け込む工程を経ます。
人間がすぐに最高の香りを実現しようとしても、それはできません。
確かに、すぐにでも一定の良い香りはするものの、さらに最高級のものを追求するには、熟成が不可欠です。
私の感覚では、このエタノールに漬け込んでから3年が経過した時点で、龍涎香は最も良い状態になります。この3年間で、香りの角が取れ、甘さがより深く増し、最高級の香りへと変化するのを肌で感じてきました。
チンクチャ(香りの抽出液)を作る際にも、この熟成期間を経なければ、真の最高品質には届かないのです。
また、企業秘密的な取り組みではありますが、私たちはエタノール漬けの工程で水晶(クリスタル)を一緒に漬け込むことがあります。これは、水晶が持つ振動が香りの細かさを変え、さらに洗練された、良い香りに導いてくれると感じています。
グレード別:龍涎香が担う「現実」と「精神」の役割
龍涎香は、その漂流期間や色によってグレードが分けられ、調香においてそれぞれ異なる役割を担います。
これは代替医療の考え方と類似しており、色によって働きかけるレベルが分けられる傾向があります。
ブラウン/ブラックグレード:現実と情熱を呼び覚ま
約30年程度とされるブラウンやブラックのグレードは、現実感や情熱を高めるようなブレンドに使用するのが適切です。
これらのグレードには、フンステロイド成分(いわゆる糞石の成分)が含まれており、これが、肉体レベルや現実レベルに効果をもたらすと考えています。この成分は美容にも良いとされています。
ホワイトグレード:精神性を高める洗練された香り
一方、ホワイトグレードは、その名の通り洗練された香りであり、フランキンセンス(乳香)がそうであるように、精神性や肉体を超えた部分に働きかける香りを作るのに適しています。
私は、ホワイトグレードには、精神性に作用し、より超越した効果をもたらす力があると感じています。
嗅覚を超えた効果!龍涎香がもたらす「うっとり」体験
龍涎香の真の価値は、単なる「良い香り」という嗅覚レベルに留まりません。
香りを体験する経路は複数あります。鼻から脳神経を経て脳に届く経路とは別に、肺や肌から成分自体が血流に乗って脳に届く経路があります。
私の個人的な説ではありますが、龍涎香の成分がこの血流に乗って体内に取り込まれることで、人が「うっとり」とする効果が生まれると考えています。
昔から美容目的で使われてきた効果も、この「うっとり」効果と関連しているのかもしれません。
この「うっとり」状態こそが、調香師として龍涎香が真価を発揮する瞬間だと感じています。うっとりとした状態で他の香りを嗅いだ場合と、そうでない場合とでは、香りの感じ方が全く異なります。
龍涎香は、他の香りの体験を底上げし、より深く、より豊かで、世界を変えてしまうような体験として感じられるように導いてくれるのです。
嗅覚細胞ではない部分に働きかけ、香り体験を豊かにするこの作用は、ローズやシナモンなどでも見られますが、龍涎香では特に顕著に現れる現象だと、私は日頃の調香作業の中で確信しています。
この特別な作用こそが、竜涎香が単なる香料としてではなく、昔から儀式などに使われてきた理由ではないかと考えています。
— 龍涎香の体験は、嗅覚だけでなく、
成分が体内で働きかけることで深い「うっとり」感を生み出し、
他の香りを引き立てるブースターのような役割を果たします。
まるでオーケストラにおいて、
特定の楽器が全体の響きを増幅させ、
聴衆に感動的な体験をもたらすように、
龍涎香は、香りの世界を
別次元に引き上げる力を持っているのです。


